コラム : ネットショップと商標権〜ネットビジネス成功のカギ

(1)ネットショップ事業の拡大

近年、インターネットの発達により、ネットショップオンラインショップ)を開業してネットビジネスに参入する人の数が爆発的に増えてきました。実際の店舗を持つ必要のないネットショップは低コストで開業できるメリットがあります。このため、今までショップ経営をしたことがない一般の人もネットビジネスに参入してきたことにより、ネットショップの店舗数は飛躍的に増大しています。これに伴いネットショップの店舗名の数も増大し、同じ店舗名が重複するケースが増えてきます。

(2)ネットショップの店舗名・ショップロゴの価値

ネットショップを開業しても、通常それだけでは十分な利益確保とはいかないのが一般的のようです。ネットショップでは、そのショップのホームページのアクセス数の増加させるという独特の工夫が必要になってきます。

そのひとつの手段として、SEO (Search Engine Optimization) 、すなわち検索エンジン最適化と呼ばれている、検索サイトで上位表示されるようにする工夫があります。SEOのために年間数万円、なかには数十万円を使っているネットショップもあるとのことです。

このようなSEOや、他の広告活動、営業活動を行って、検索サイトで上位表示されるようになったネットショップの無形の価値(のれん・信用)は、その店舗名やショップロゴに宿ることになります。もしのれんや信用などの無形の価値が高まったネットショップで、店舗名やロゴを変更しなくてはならないとなると、その損失は多大なものになることは言うまでもありません。

(3)店舗名やショップロゴの商標権による保護

ネットショップにおいて、店舗名やショップロゴは、小売商標として商標権の申請することにより、商標権によって保護されます。商標権は、ある商品やサービスについて、ネットショップの店舗名やロゴなどの商標を、自分だけが使用できて、他人の使用は禁止できる権利です。

したがって、小売商標として自分のショップ名やショップロゴの商標権を持っていると、同じショップ名や似たようなショップロゴで、同種の商品を販売している他のネットショップに「そのショップ名を使用するな!」と要求することができます。

(4)小売商標(注:a) とは

小売商標は、簡単にいうと販売のための商標です。

商標は本来、自分の商品や自分のサービスなどにつけるための標識です。しかし同じ商品を購入する場合でも、○○スーパーよりも○○百貨店のほうが信頼がおけるので、そちらで買おうだとか、バイヤーさんのセンスがいいのでセレクトショップ○○で買うようにしているとかいうことがあります。このような、他人が製造した商品を小売販売(注:卸売販売も含む)するための商標を適切に保護することを目的として平成19年4月に導入された(注:b)のが小売商標というわけです。

この小売商標によれば、セレクトショップドロップシッピングの店舗名やショップロゴなどでも適切に保護が受けられます。もちろん自分の製作した商品を販売するネットショップでも小売商標は利用できます。特に、店舗自体の名称と商品名が異なるような場合は、店舗名を小売商標とし、商品名を通常の商標(商品商標)として商標権を取得することがよいでしょう。

(5)商標権の性質

ここで気をつけなければならないのは、日本国では独自ドメイン取得の場合と同じく、商標権は、原則、早く申請したもの勝ちということです(注:c)。ネットショップ開業などで先に使用した順ではありません(注:d)。また他人の商標権がある商標と、偶然同じショップ名をつけてしまい、その他人の商標権の侵害をしていた場合に、他人の商標権の存在を知らずに侵害したとしても、そのショップ名を決める前にしっかり商標調査を行ってなかったことなどに過失があるとして、ショップ名の使用できなくなったり、損害賠償を請求されてしまいます(注:e)。

(6)ネットショップにおける商標の使用の特徴

自分の商標権のある商標(店舗名、ショップロゴなど)を、他人が侵害行為をしていたとしても、例えば警察がその侵害者を捜査で発見して逮捕してくれるようなものではなく、自分で発見し、自分で警告や訴訟を行わなえればなりません(注:f)。実店舗の場合、自分の生活圏外だけでそのような侵害が行われていても、その侵害行為に気づくことがないめ、事実上どうすることもできません。

しかしネットショップの場合、検索サイトでご自分の店舗名を検索するだけで、同じ店舗名の他人のネットショップを発見できます。このことは、自分が商標権を持っていれば、その商標権を有効利用できる機会が多くなり、逆に商標権を持っていないと、いきなり他人から店舗名やショップロゴの使用をやめろという警告を受けるリスクが高まることを意味します。

このようにネットビジネスにおいては、ご自分のネットショップの店舗名やロゴについて商標権を持っていることは、強力な槍(攻撃武器)を持つだけでなく、同時に強固な鎧(防御武器)を持つことにもなります。

(7)まとめ

以上まとめますと、ネットショップの参加者の増大や、侵害の発見のされやすさから、ネットショップ業務では、店舗名やショップロゴについて商標権を取得することは実店舗の商標権よりもはるかに役立ちます。SEOやその他の営業活動でネットショップの価値を高める攻撃的販売戦略とともに、商標権を取得する防御的販売戦略も併せて行うことがネットビジネス成功のカギといえましょう。

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〔注釈〕

a)  小売商標:正確には「小売等役務商標制度」といいます。

b)  平成17年4月以前は、小売業の商標が全然保護されていなかったわけではありません。例えば 百貨店では、自己の販売するすべての商品の種類について「商品商標」としての商標権を持ってい ました。しかし、商品の種類が多くなると商標権取得のコストも大きくなる、また商品の種類を示 さないでするCM(例えばセールの日を知らせるテレビCM)などは商標の使用と認められない、 などの問題があり、”適切に”保護されているとは言えない状況でした。

c)  原則「早いもの勝ち」を示する商標法上の条文:

商標法第4条1項柱書「次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。」

同第11号「11.当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であ つて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務…(筆者注:原文の注釈文省略)…又はこれ らに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」

d)  かなり有名になったショップ名の商標であれは、いったん登録された他人の商標権 を無効にして、自分の商標として申請することができます。しかし自分のショップ名がどのように 使われたかを書類として残しているなどの日頃の努力をしていない限り、自分のショップ名が有名 であることを証拠を収集することは大変な労力が必要であり、また無効にするための費用もかなり かかることになります。従ってある程度有名な店舗名、ショップロゴであっても商標権を取得し、 防御を万全にしておくことが大切であると思います。

e)  過失であっても侵害したとされる商標法上の条文:

商標法第39条で準用する特許法第103条「他人の特許権(筆者注:「商標権」と読み替える)又は専用実施権(筆者注:「専用使用権」と読み替える)を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。」

f)  通常、侵害発見後は依頼した弁理士や弁護士が代理して警告などを行うことになります。その場合でも侵害行為の発見は自分で行うか、さもなくば調査会社(探偵など)などに依頼することになります。

(2009年5月27日公開, 最終更新2011年11月4日)