ライセンスの手法:独占排他的権利で仲間づくり

明けましておめでとうございます。 本年もよろしくお願い申し上げます。

2011年を振り返ってみますと、昨年は東日本大震災という大きな天災がありました。 被災された方々に、改めて謹んでお見舞い申し上げます。 また一刻も早い復旧・復興を心よりお祈り申し上げます。
   そんななか、2011年度の漢字に「絆」が選ばれました。 これは、大規模な災害の経験から家族や仲間など身近でかけがえのない人との「絆」が深まったのはもちろんのこと、被災地で困っている方と、幸いにも被害を受けなかった方という「他人」の間においても新たな「絆」が結ばれていったことも大きな理由でしょう。
   実際、災害地へ向かうボランティアの方も多く、また災害地に行けない方でも、自らの財産を被災地の復興に役立てて欲しいとの思いから、募金される方が多くいらっしゃいました。

ところで「特許権を取得する」というと、自分のアイディアを権利化して他人にそのアイディアの製品を販売させない権利(独占排他的権利)であるという側面から、特許権は「一人勝ち」のための権利で「絆」とは全く相容れないというイメージを持たれている方もいらっしゃるかもしれません。
   しかし実際のところ、特に電機業界などでは、特許権はむしろライバル企業との「絆」を深めるために多く使われています。 それが「ライセンス」という手法です。

ライセンスは、自己の特許権を他人に使ってもらい、自分はその対価を受け取るという制度です。 なかでも自分の特許権を相手に提供するから、代わりに自分は相手の特許権を使わせてもらうという「クロスライセンス」という手法が多く使われています。

そんなクロスライセンスなど面倒なことをするぐらいなら、いっそ自分の特許権も相手の特許権も放棄して、使いたい人(企業)が自由に使えるようにしたほうが「絆」が深まって産業全体がいっそう発展するのではないか、と考えられるかもしれません。 しかし実際は、互いに特許権を放棄するよりもライセンスを活用したほうが産業全体としても発展するのです。

特許権を取得するということは、自分した発明をいったん自分の財産(権利)として確定しておくことです。 この「自分の財産として確定しておく」ということは非常に重要です。 自分の財産として確定させるからこそ、ライセンスは自分の意思でコントロール可能になります。 これに対して特許権を放棄してしまうと、その発明を行おうとする人に自分は何の関与もできません。

したがって、発明をいったん自分の財産として確定させてから、ライバル企業とクロスライセンスをすることで、ライバル企業との不毛な訴訟合戦を回避しつつも、切磋琢磨しながらよりよい技術を開発していける素地を作っているのです。
   この他にも、ライセンスがあれば技術指導も導入できる、など様々な面から、自分と相手の特許権の一斉放棄よりも産業全体の発展に役立ちます。

このように、特許権は独占排他的な使い方以外にも、色々な利用方法があります。 そしてその特許権の使い方によって、特許”出願段階”の戦略も大きく変わってきます。
   知的財産部門をお持ち大企業の皆様は、そのあたりは十分ご存知かと思いますが、中小企業の方の中には、発明したのでとにかく特許にしたい、とだけお考えの方も多いように思われます。

当事務所では、特に知的財産部門をお持ちでない中小企業の方から特許出願の依頼を受けた場合は、出願段階から、特許権を取得した場合にどのように使用されたいかを確認し、その使用(予定)に最適な内容の特許出願にすべく心がけております。

(2012年1月掲載)